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今回の木戸涼子の個展『Time for a snack Vol.2』は、前回2018年のKido Pressでの個展『# おやつのじかん/# time for a snack』の第二弾というべき作品群である。徹底的に「甘党」であり、そして食べることの好きな木戸が、アイスクリームやかき氷やカップケーキを描いた前回に続き、プリン・アラモードやゼリーや、果ては大きな飯の山にその山頂に鎮座する梅干を描くことは、「身近な日常に目を向けた主題を再び踏襲」などと平たく説明してしまうのではおよそ十分ではない、深い読みが必要だ。美大を出て以来たゆまず絵を描き続けてきた彼女の年月の多くは、ほんの近年まで、「母親業」とのバランスをとりながらの作家生活であった。その結果...といっては表層的にすぎるかもしれぬが、過去のふたつの個展『春へのまなざし』(2009)や『雨ときどきわらって』(2012)は、「母」という言葉と呼応するような「柔らかさ」「包容力」「暖かみ」といったものがキャンバスから滲み出る作品群であった。
それが、前回、2018年の『# おやつのじかん』では大いに変化した。「おやつ」という居心地の良い題名にもかかわらず、画面に描かれた「甘い食べ物」たちの放つのは、強い自己主張であった。テンペラという古典的な技法によって重厚さを纏った「甘いもの」たちは、見る者に「どうだ」と拳をつきつけるような強靭な存在感を訴えてきた。子供との付き合いの日々の中から温かく柔らかい世界を描いてきた木戸がようやく、自分自身のエゴに100%向き合える立ち位置を築いた故の、拳であろうか。そうやって木戸の変遷を捉えた時に、今回ふたたびテンペラを用いて発表する同じ主題の個展は、彼女の自我のさらなる探究だとわかる。浮遊するアポロチョコ、空を切るカット・リンゴ、銀の包み紙から忍び出るキャラメル群。木戸が細部まで綿密に描く食べ物たちは、本気で見る者の隙をついて襲いかかってくる。飯の山は世界を凌駕するようだ。『Time for a Snack』というリラックスを誘う題名に騙されぬよう、腹をくくって木戸の自我と向き合うべき展示である。
画像:"Time for a snack 2022"
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